うちの猫が腎臓病に・・・ 吐く?兆候は?治療は?
我が子の愛らしい寝顔を見つめながら「ずっと健康でいてほしい」と祈るような気持ちで呟いた経験のある飼い主さんも多いのでしょうか。私も自分の猫が病気になった時、変われることなら変わってあげたい、そしてずっと元気で長生きしてほしい、と祈っていました。とはいえ、病気は体質や遺伝が原因となったり、加齢が原因で発症し、予防や完治が難しい病気もたくさんあります。
我が家の動物が病気になった時、少しでも良い状態で過ごせるよう、しっかりと支えてあげたいですね。そのためには、動物病院での処置や治療はもちろん大切ですが、食生活などの普段の生活環境が重要な役割を果たします。大切なペットが病気になった時に、飼い主さんがいかに病状を把握し、病気とうまく付き合うために大切なことを紹介したいと思います。今回は猫ちゃんの宿命、「慢性腎臓病」についてお話しします。
猫がかかりやすいのは「慢性腎臓病」
腎臓病にかかる猫は、犬よりも多く、7歳以上のシニア猫のうち3~4割は腎臓病を患っていると言われています。
猫がかかりやすいのは、「慢性腎臓病」です。その名の通り、気づかないうちにゆっくり進行していく病気です。腎臓が徐々に炎症を起こして線維化し、腎機能が衰え、最終的には機能しなくなります。高齢の猫に多く見られますが、若い子でも発症することがあります。また一部の純血種の猫ーアビシニアン・ロシアンブルー・ペルシャ・チンチラ・シャム猫・ヒマラヤンなど、その血統をひく雑種の猫ちゃんで遺伝的、あるいは家族性の腎疾患が認められることがあります。
慢性腎臓病になると、どんな兆候がみられるか?
気づいたときにはかなり進行しているのがこの病気の特徴です。
1番初めに見られる兆候は、水をたくさん飲むようになり、おしっこの量が増えることです。そのため、オシッコが薄くなり、ニオイもあまりしなくなってきます。食欲も元気もあるので見逃しがちですが、この段階で腎臓の機能はすでに50~75%くらい失われています。
その後、食欲の低下、体重の減少、毛艶がなくなるなどの症状も少しずつ現れます。症状が進むと尿毒症になり、排泄されるはずの毒素や老廃物が体内に溜まってしまうので、気持ち悪くなって吐いたり、口臭がします。このような症状が出た時に異常に気づく飼い主さんが多いですね。
この状態になると、食欲がまったく無くなったり、激しい嘔吐が繰り返し怒ったり、体温が低下します。最終的に腎機能が全く機能しなくなり、死に至ります。
腎臓の働きは、体の中の老廃物を尿として排泄したり、体の中の水分バランスを整えたり、いくつかのホルモンを産生することです。腎臓の働きが悪くなると、水分バランスが悪くなるので尿の量が増えたり、水をたくさん飲むようになったり、脱水症状を起こしたりします。
慢性腎臓病のステージ
犬・猫の慢性腎臓病は、次の表のように4つのステージに分類されます。
ステージ1 | ステージ2 | ステージ3 | ステージ4 | |
血漿クレアチニン濃度(mg/dl) | <1.6 | 1.6~2.8 | 2.9〜5.0 | >5.0 |
SDMA(μg/dl) | <18 | 18〜25 | 26〜38 | >38 |
<ステージ1>
臨床症状:全くみられず
血液検査:異常なし
尿検査:尿比重の低下や蛋白尿
この段階ですでに正常の1/3程度まで腎機能は低下しています。
<ステージ2>
臨床症状:「多飲多尿」
血液検査:腎機能項目が上昇
尿検査:ステージ1と同様
腎機能が低下していくると、尿が濃縮できなくなるため、薄い尿を大量にするようになります。そのため水分不足になり、水をたくさん飲むようになるのです。この段階ではまだ食欲や元気が普通にあり、なかなか以上に気づかないことがありますが、腎機能は正常の4分の1にまで低下しています。
<ステージ3>
臨床症状:尿毒症により、口腔粘膜や胃粘膜が荒れて、口内炎や胃炎になりやすくなります。「食欲がない」「吐く」なdの症状が見られます。
血液検査:腎機能項目が高値
CREA(血清クレアチニン)、BUN(血清尿素窒素)の上昇が見られるようになります。CREAもBUNも、本体は腎臓から排泄されるべき老廃物ですが、腎機能の低下により排泄できなくなるため、血中濃度が上昇します。CREAは腎臓のろ過機能が25%以下になって初めて上昇します。つまり、軽度であってもCREAの上昇が見られるということは、すでに腎臓機能の75%以上が破壊されていることを示しているのです。
また、腎臓は赤血球の成熟に必要なエリスロポエチンというホルモンを産生していますが、慢性腎臓病になるとエリスロポエチンの酸性が減少するため、貧血が起きることがあります。
尿検査:ステージ1と同様
この段階になると、老廃物や有害物質の排泄ができなくなり、尿毒症が進行してきます。
<ステージ4>
さらに尿毒症が進行する病気で、積極的な治療なしでは生命維持が困難になります。
慢性腎臓病の治療方法は?
どのような治療を行うのでしょうか?
腎臓の組織は一度壊れると元に戻すことはできないので、慢性腎臓病を治す治療はありません。治療は残っている腎機能を長持ちさせて、病気の進行を遅らせることが中心になります。腎臓に負担をかけない低タンパク・低リンの食事を与える食事療法や、場合によっては投薬治療も行います。なるべく初期の段階から食事療法などを行えば、完治はしなくても長生きすることは十分に可能です。
●食事療法
食事中に含まれるタンパク質やリンは腎臓に負担を与えます。慢性腎臓病を遅らせるためには、食事中のタンパク質、リン、ナトリウムを制限した上で必要なカロリーを効率的に補給することができる療法食が適しています。
腎臓処方食はこれら成分の調整が行われており、初期の腎不全から食事を切り替えることは最も良い腎不全の管理と言えます。
これまでの研究で、慢性腎臓病用の療法食を食べていた慢性腎臓病の猫ちゃんの発症後の生存期間は、食べていなかった猫に比べて2倍以上であることがわかっています。慢性腎臓病の猫には、なるべく早期から慢性腎臓病用の療法食を与えることが勧められています。
食事の好みから、療法食をなかなか受け付けてくれない猫もいます。療法食を作っている各メーカーから慢性腎臓病用の療法食が各種出されており、ドライタイプ、ウェットタイプ、味が異なる物などから好みのタイプを探してあげましょう。
とうしても療法食を食べない場合や、アレルギーなどの他の疾患があり、そちらの食事療法も必要であるため慢性腎臓病用の療法食を利用できない場合もあります。そのような時は、食事は 今までのフードを利用していただき、食事中のリンの吸収を抑えるリン吸着剤や、尿毒症の毒素を吸着する活性炭などを併用することで、症状の進行を抑える効果を期待することもできます。主治医に相談してみましょう。
慢性腎臓病が進行し尿毒症が起こってくると、尿毒素の影響で口腔粘膜や胃粘膜が荒れて、口内炎や胃炎になりやすくなり、口の痛みや吐き気などから食欲が落ちてきます。痛みや不快感を軽減するための治療をおこながら、少しでも美味しく食べられるように、次のような工夫をしてあげると良いでしょう。
1、フードを温める
ウェットタイプのフードはレンジで少し温めてみたり、ドライフードの場合にはドライヤーなどで温めてみたりすると、匂いが立ち風味が増します。
2、トッピングをする
猫であれば、カツオブシや猫缶など、好みの食材を少量トッピングしてみても良いでしょう。腎臓に負担をかける塩分とタンパク質の取りすぎに注意し、トッピングする食材や量については、主治医の先生に相談してみましょう。
また、高栄養の療法食の缶詰や栄養補給用のペースト状のサプリメントなどを利用すると、少量で栄養を補給することができます。これらは食欲が落ちてしまった時でも食べられるように嗜好性が高く作られていますので、療法食にトッピングすることで食べてくれる可能性が高くなります。
3、流動食を利用
水分は摂るけれども、固形色を受け付けない場合や、口の痛みがあって食べづらい場合などは、液体状や粉状のものを水で溶かして与えるタイプの流動食を利用するのも一つの方法です。腎臓病専用の流動食もあります。自分から飲まない場合には、シリンジなどで口に入れてあげて飲ませることもできます。ただし、嘔吐がない場合に限ります。
4、食欲促進剤を利用
嘔吐がないようであれば、食欲促進効果のある薬で、かつ腎臓に負担の少ない薬を一時的に利用して、食欲を出させる方法もあります。主治医の先生に相談してみましょう。
5、何も食べないよりは、とにかくなんでも良いので食べてほうが良い
食欲不振で食べない状態が続くと、体重が落ちて衰弱してしまうだけでなく、生命を維持するためにタンパク質が利用され、腎臓にさらなる負担をかけるという悪循環に陥ります。療法食などの腎臓に負担をかけないで済む食事をどうしても受け付けない場合には、仕方ありませんので、とにかくなんでも食べられる物を与えてみましょう。
自分から「食べたい」という気持ちにさせてあげることも大切です。塩分の多い物(ソーセージなど)やタンパク質の多い物(お肉やお刺身など)は食欲が落ちた時でも好んで食べてくれることが多い食材ですが、腎臓には負担をかけます。ある程度食べられそうなことが確認できたら、それらの食材を上手く利用しながら、なるべく療法食など腎臓に負担をかけにくい食事に移行していくことも大事です。
6、強制給餌/経管栄養
どうしても食事を受け付けない場合には、強制的に食事を与えること=強制給餌や、経鼻チューブ、経食道チューブ、胃瘻(いろう)チューブなどを利用して経管栄養を与えることもあります。
強制給餌はウェットフードを指につけて上顎につけたり流動食や柔らかくしたウェットフードをシリンジなどで口の中に入れる方法です。比較的手軽にできますが、「食べたくないときに強制的に食事を口の中に入れられる」ということが、ストレスになってしまう可能性もあります。
経鼻チューブ、経食道チューブ、胃瘻チューブなどを利用した経管栄養は、そのようなストレスを最小限に抑えることができ、腎臓病用の流動食や水分、、薬などを効率的に与えることができます。一方で、経食道チューブ、胃瘻チューブの装着には鎮静や麻酔処置が必要となり、腎臓の状態によってはリスクを伴うことになります。
●飲水量を増やす
嘔吐がなければ、まずは自分で口から水をたくさん飲めるように工夫してあげましょう。猫に水を積極的に飲ませることは容易なことではありませんが、水飲み場を増やしたり、常に新鮮な水を用意してあげたりすることで猫の飲水欲を刺激することができます。なかなか飲水量が上がらない猫の場合、スポイトなどで直接飲ませる方法もあります。
水分摂取量を増やすためには、次のようなことを試してみると良いでしょう。
汲み置きの水が好きな子、新鮮な水が好きな子、蛇口から出る水が好きな子、冷たい水が好きな子、温かい水が好きな子など、飲水の好みは動物によって様々です。いろいろなタイプの飲み水を用意しておき、どのような飲み水を好むかを観察してみましょう。
また、お水の置き場所も重要です。静かな場所でのみのが好きな子、家族の近くで飲むのが好きな子、窓の近くの外が見える場所で飲むのが好きな子など、様々ですので、いろいろな芭蕉に置いて試してみましょう。飲み水は一カ所だけでなく数カ所においた方が、飲水量が増えるというデーターもあります。
普通のお水をなかなか飲んでくれない場合には、脂身の少ない鶏肉やお魚などを煮出して、脂を取り除いて作ったスープや野菜を煮出して作ったスープ、缶詰やドライフードを少量加えて溶かした状態の水などを飲んでくれる場合もありますので、試してみるも一つの方法です。
ただし、腎臓の状態のよって使わない方が良い食材もありますので、必ずかかりつけの先生に確認してからにしましょう。また、飲み水に混ぜて嗜好性を高めるための液体状のサプリメントなどもありますので、動物病院で相談してみても良いでしょう。
ドライフードよりもウェットフードの方が、水分摂取量が増加します。嗜好性の高い腎臓病用の流動食などを利用しても良いでしょう。また、ドライフードを水でふやかすことでも飲水量を増やすことができますので、ふやかした状態のお食事を嫌がらないようでしたら、試してみましょう。
急な食事の変更がストレスとなる場合もあります。このようなことを防ぐために、「今までの食事に新しい食事を少しづつ加えながら、数日かけて徐々に切り替えていく」、「今までのお食事と新しいお食事の2種類を用意して選ばせる」など、工夫すると良いでしょう。
自分から進んでお水を飲もうとしない場合には、どうβつが嫌がらなければ、シリンジやスポイトなどを利用して飲ませる方法もありますので、主治医の先生とご相談いただくと良いでしょう。
●投薬
慢性腎臓病で処方される薬は院像自体を治すための薬ではありませんが、尿毒症の進行を遅らせ、様々な辛い症状を抑えるためには、とても大切なものです。なるべく指示通りにきちんと飲ませるようにしましょう。
食事中の毒素やリンを吸着するお薬です。間接的に腎臓の負担を軽減させます。腎臓処方食を食べてくれない子には非常に有効です。腎臓食との併用も可能です。
腎機能が低下することで、老廃物が体外に捨て辛くなってしまいます。そこで腎臓は、血圧をあげることで腎臓に流れる血液を増加させ、頑張って老廃物をこしだそうとします。腎臓で昇圧ホルモンが分泌されることで、腎臓への血流を上げ、その結果全身性の高血圧が見られるようになります。この作用によりさらに腎臓への負担が増えてしまい、腎臓の寿命が短くなってしまいsます。
そこで、ACE阻害薬を使用することで降圧効果をもたらすことで、数年単位での寿命延長が期待できます。
ただし、吐き気があったり、口内炎などで口が痛がったりで、猫が投薬を嫌がってしますような場合もあります。錠剤、カプセル、粉薬、シロップなど、剤型を変えることで投薬が楽になる場合もありますし、どうしても口から投薬が難しい場合、経管栄養の流動食や輸液剤に薬を混ぜることもできます。なるべく猫にストレスがかからない方法で投薬ができないかどうか、主治医の先生とよくご相談いただくと良いでしょう。
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●点滴
経口的には投与が難しい水分量を注射で補うことで、脱水改善や尿毒症を和らげることが可能です。静脈点滴や皮下点滴の2種類の方法を状況的に応じて選択します。症状がひどく入院治療を行う場合は静脈点滴を、通院点滴での管理には皮下注射を用います。点滴治療は、即効性があり非常に有効です。
静脈の血管に留置針(柔らかいシリコンの針)を挿入して固定し、輸液剤を直接、静脈に投与します。輸液剤は少量ずつしか投与できないため、必要量を十分に投与するためには、長時間かかります。そのため、入院(日帰り入院も含む)が必要ですが、体の状態に合わせて必要な輸液量を調節しながら直接血管に投与できるので、とても効果的な方法です。
動物の背中(左右肩甲間の間あたり)の皮下に針を刺し、輸液剤を投与します。比較的短時間でできるため、通院でできます。また、やり方を動物病院で指導してもらって自宅で行うこともできます。皮膚の下に、輸液剤を一度に投与しますので、投与部位が一時的に瘤(こぶ)のように腫れますが、時間と共に吸収されていきます。入院や通院が動物にとってのストレスとなることが懸念される場合には、短時間の通院あるいは自宅でできる皮下点滴が適しています。ただし、重度の脱水や心不全などで循環の状態が悪い場合には、皮下に投与した輸液剤が効果的に吸収されませんので、静脈点滴の方が適しています。
嘔吐が見られる動物には、経口での水分補給ができませんので、皮下点滴、あるいは静脈点滴を行うことになります。どちらが適しているかは、その時の状態や猫の性格(入院や通院がストレスにならないかなど)、飼い主さんのご都合(通院あるいは入院の送り迎え、自宅での皮下点滴処置や経過観察が可能かどうかなど)によっても異なってきます。主治医の先生とよくご相談の上、動物の飼い主さんにとっても最も負担にならない方法を取るようにしていただくと良いでしょう。
●造血ホルモンの投与
腎不全の症状に貧血が加わってしまと、猫は急速に衰弱していきます。貧血状態も血液検査にて定期的に確認することで、貧血の症状が出る前に造血ホルモンの投与が行え、治療が可能です。1クール2~3回の投与で2~3回の投与で2~3か月の効果が期待できます。
治療費はどのくらいかかるもの?
治療費はどのくらいかかるものでしょうか?ペット保険会社の猫の契約者の保険金請求状況から、平均的な治療費などを調査してみました。
<診療費>
・年間平均診療費:272,598円
・平均診療単価:9,329円
<通院>
・年間平均通院回数:15,2回
<入院>
・年間平均入院費用:119,223円
・平均手術費用単価:269,107円
*対象:2017年度始期で契約開始した猫100,472頭(0~12歳)
上記のデータから、慢性腎不全にかかると、1年に15回ほど通院して、1年間の平均診療費は約27万円ということになります。ただし、これはあくまで平均の金額なので、場合によってはここまでかからないこともあれば、もっと高額な治療費が必要になる、ということもあるでしょう。いざというときに、貯金をしておくことも大事ですが、ペット保険に加入することも検討してみるのも良いかもしれません。
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まとめ
最後に、腎不全は長生きする猫にとって”切っても切り離せない病気”です。
早期診断、正しい知識を持っての日常管理が行えれば、猫にとって、快適な生活が終生送れると考えます。特に猫は、症状を隠すのが上手な生き物です。定期的な健康診断にて隠れた以上を早期に発見することが、猫の長生きと健康に最も大事なことです。また、小さい頃から病院に行き、病院の環境に慣れておくことで、病気で入院が必要になったとしても、入院ストレスが軽減され早期改善が期待できます。日常生活での行動の変化、病院への定期的な通院を心がけ、ストレスなく万が一腎不全になったとしても、不快な症状を和らげ、少しでも長くストレスの少ない状態で過ごせるよう努力することが飼い主さんのできることだと思います。